第11項 ライロック・マディン2(ハインリッヒの法則)

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 国王を国民選挙で選ぶ――。
 国王になりたいと考えるクリスタニア閥徒の願望と、アインの権力にしがみつかない姿勢があったからこそ、この仕組みは実現できた。国民選挙で国民に選ばれ、王となったグインは、戴冠式でアインから王冠を被せられた。

 アインもグインも死力を尽くしてフェアに戦った。その結果としてグインが王になったのだから、そこに一片のわだかまりも無い。

 グインは国王の書斎で煙草をふかせていた。アインが王の頃、この部屋に灰皿は置かれていなかった。人も街も国も何もかも変わっていく。
 書斎のドアがノックされた。グインは入るよう言うと、そこに立っていた男を見て少し驚いたが、すぐにいつもの不敵な笑みを浮かべて言った。

「良い勝負だったな」
 グインはアインに対し、穏やかな声色で声をかけた。
「君は私が見た中で最高の政治家だ。マルルト・ストラトスなど目ではない」
 アインはこの台詞に言葉を詰まらせた。

「これからどうする?」
 グインはアインを秘書に迎え入れたいと強く願っていた。しかしアインは世界を見て、見聞を深めたいと言った。
「アイン、お前が拒まないのであれば、俺の秘書として共に働いてもらおうと考えていたところなのだが、それであれば仕方ない。世界を見ることは良いことだ。オースティアだけでなく、世界の繁栄を願えるような人物となって、帰ってきてくれることを望もう。それから。お前はこの10数年、自分の中の理想だけを追いかけ、反復推敲を繰り返してきた。その結果が今のお前の生き様なのだとすれば、稀に見る蓋世之材だ。しかしお前が今以上の成長を望むならば、お前の理想を越えた師を持つべきだ。マタリカの旅でその師と出会えれば良いな」

 アインは、グインこそがその師となりうる人物だと感じてもいた。オースティアを愛する2人の政治家の絆は、この時からつながりを増していった。

***

 オースティアに変化が訪れている頃、リベラリアでは、ライロック・マディンがベアトリスに拳を上げていた。しかしベアトリスは怯まず彼と対峙する。
「仕事なのだ。提督の指示は守らねばならない」
「貴様・・・!」
 ライロックは、振り上げた拳を振り下ろすことはしなかった。リベラリア現提督への忠義が、かろうじてベアトリスへの憤怒を押さえ込んだ。ライロックの拳から逃れたベアトリスは、服を整えながら言う。

「ライロック殿の忠義、見事であります。リノアン卿よりも現提督への忠義を遵守したあなたの行動。提督はお喜びになられますぞ」
 ベアトリスはそれだけを言って、カッカッカと嗤いながら消えた。ライロックは壁を思い切り殴りつけて、怒りを露にする。

「くそっ! くそっくそっ!」
 この日2ヶ月ぶりにリノアン・デュランの元を訪れたライロックは、リノアンの言動がおかしいことに気づいた。その原因となったのは、軍部大使――暗黒魔導士ベアトリス。リノアンの教育係に任命されたベアトリスが、リノアンに対して、ブレインストームの魔法をかけたのだ。『不安を助長し、不安から誰かに依存させる』黒魔術であるブレインストームは、対象者に自立的な判断を失わせ、誰かの傀儡となることを強要する。

「リノアン・・・」
 ライロックは、自責の念に駆られる。彼はベアトリスの危険性を十分理解していたつもりだった。ベアトリスが教育係に任命された時、リノアンは不安そうにライロックを見て、怖いと言った。何故、そのとき対処しなかったのか、ライロックは強い後悔を感じていた。
「ハインリッヒの法則を意識していれば、こうはならなかった。300件のヒヤリハット、29件の軽い事故の先に1件の重大事件がある」

 ライロックは翌日、リベラリア提督に直訴した。
「提督。何故、リノアンにブレインストームの魔法をかけさせたのですか」
「私を殺したいだろう、ライロック。だが、その殺意はできれば別のところに向けてくれ。リベラリアは、今後の5年間が重要なのだ。16歳の女にはできぬ仕事だ。許せ」

 ライロックは爪の先から血が出るほどに強く拳を握り、その痛みで提督への怒りを収めた。彼はリベラリアの国家図書館に潜り、ブレインストームの解除方法を模索する。どの本を読み解いても、書いてあることは同じであった。『暗黒魔法は不可逆の魔法であり、ブレインストームを解除することはできない』と。それでもライロックは、リノアンにかけられた魔法を解除することをあきらめなかった。

「必ず、あなたを元に戻す。それが俺のできる、償いだ」

 オースティアとリベラリア。その未来は、光と闇の奏でる旋律の彼方へ。

 
 
《第1部アイン・スタンスライン目次》
プロローグ
第1項 アイン・スタンスライン1(PDCA)
第2項 アイン・スタンスライン2(5−Why)
第3項 アイン・スタンスライン3(As Is / To be)
第4項 ケルト・シェイネン1(GROWモデル)
第5項 アイン・スタンスライン4(イノベーター理論)
第6項 アイン・スタンスライン5(FABE)
第7項 アイン・スタンスライン6(ジョハリの窓)
第8項 アイン・スタンスライン7(MVV)
第9項 ライロック・マディン1(ランチェスターの法則)
第10項 アイン・スタンスライン8(レヴィンの変革モデル)
第11項 ライロック・マディン2(ハインリッヒの法則)←いまここ
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