第4項 ケルト・シェイネン1(GROWモデル)

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 アインはこの事件を、『アイン・スタンスラインが好奇心から、マスマティカの両親を追い込んだ閥徒を調査した結果』として触れ回った。マスマティカをマルルトから守るためだ。この件がマルルトの耳に入り、アインはエル・クリスタニアアカデミーから除名された。

 アカデミー学長は何も理由を告げず、涙を浮かべてアインに退学を言い渡した。しかし学長はただ退学を告げるのではなく、エールアカデミーへの編入をアインに提示した。これは学長のマルルトへの個人的な反抗であり、アインは学長の心意気を感じ取り、エールアカデミーへの編入を決めた。

***

 4月頭、エールアカデミー5回生ケルト・シェイネンは人生に絶望していた。エールはオースティアの8つのアカデミーのうち、偏差値が5番目のアカデミーで、学生も勉学へのモチベーションは低く、教授も学生が授業を聞かないとわかっているから、無駄話だけをして、出席さえすれば単位を出すこともあった。ケルトはそんなアカデミーの現状に苛ついていた。『お前達がやっているのは、人生の無駄遣いでしかない。成功も失敗も無いくだらない遊びに興じて、将来像も描けないまま、周りに流されて何となく就職し、何となく生きていくのだろう。自分自身で生き方を決められない、屑の集まりだ。もちろん俺も』

 ケルト・シェイネンは、1つの単位がどうしても取れず、5回目の春を迎えていた。それはエールの各教授が1週毎に自分の専門を90分かけて説明するオリエンテーションのような講義だった。毎週無難なレポートを提出すれば単位が取れるが、ケルトは何人かの教授に対して、彼らの学問に対する姿勢を論理的に批判したレポートを提出し、毎年単位を落としていた。

 ケルトはこの日、4回落としたこの単位を取るために、また教室にいた。これから教授の代わり映えしない講義が始まる。教授は本当に同じ話をし、質疑応答の時間を取った。そこで手を上げたのが、アイン・スタンスラインだった。

「教授の皆様にご質問します。私はマルルト・ストラトスよりも優秀な政治家となって、この国の政治の担い手となりたい。この中に、その目的を果たすならば自分の元で学べ、という先生はおられますか?」

 教授はドギマギし、何人かが曖昧な回答を返した。この質問はケルトにとって痛快だった。これによって教授は権威の無さを露呈したのだ。ケルトは講義後、面白い新入生が入ったものだと笑みを浮かべた。決して彼から話しかけようとはしなかったが、昼食時にその話を同級生にしていたら、同級生はアインに声をかけようとケルトに強く迫った。

 その刹那。爆発音がエールアカデミーに轟いた。隣国リベラリアの軍隊がアカデミーを襲撃したのだ。学生と教授は簡単に捕まり、校庭に集められた。だが、アイン・スタンスラインは食堂の隅に隠れており、見つかっていなかった。

 アインは瞬時にGROWモデルで、この瞬間自分が何を達成したいのか評価した。GROWモデルは目標設定(Goal)、現状把握(Reality)、資源発見(Resource)、選択肢送出(Option)、意思確認(Will)の5つのステップで目標に向けての行動を導く方法だ。彼は今エールアカデミーの学生と教授を、頼りないながらも好きだと感じ始めていて、救いたいと思っていた。それが目標だった。現状、周囲を見渡してみれば自分以外の人々はリベラリアに捕まっている。だが、人々は丁重に扱われている。どうやら今回の襲撃は、オースティアの学生をリベラリアの人的資源とする目的があるらしい。

 アインの使える資源は、マスマティカから奪うようにして引きとったスピリットが1つあるだけだ。であれば選択肢は少ない。リベラリアの軍隊は少なくとも1000人は配備されている。1人で1000人を倒すためにはレバレッジをかけなければならない。今リベラリアに捕えられている学生と教授、総計2000人を動かす必要がある。人々に希望を抱かせ、動かすことが大事だ。

 そうこうしているうちにリベラリアの軍人2名がアインを発見した。アインはこの2人を復元した銃によって倒す。その際、わざと窓を破壊し、大きな音をたてていった。彼は音というレバレッジをかけて反抗勢力を大きく見せた。それから彼は校庭の人々に対して、「あなたたちはリベラリアの軍隊に負けない力を持っている。復元能力を教える教授は、スピリットを身につけているはずだ。リベラリア軍の目的はあなたたちを怪我無く隣国へ拉致することで、武装は軽微だ。戦おう」と説いた。しかし教授が取った行動は、自分の身につけたスピリットを捨てることだった。アインは苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。

 そこで動いたのがケルトだ。ケルトは叫ぶ。
「いつまで流される人生を送るつもりだ。自己決断力の無い屑ども。今動けない人間に何の価値がある。いい加減気づけ!人生は誰かが決めるものじゃない」
彼は見張りのリベラリア軍人から剣を奪い取ると、自らの足を貫いた。それは動き出さない周囲と自分への憎悪だ。人々はケルトの異常な行動に不快感を抱き、彼に言われるままでいることを嫌い、軍隊に反抗をしかけ、見事退けた。

 
 
 
《第1部アイン・スタンスライン目次》
プロローグ
第1項 アイン・スタンスライン1(PDCA)
第2項 アイン・スタンスライン2(5−Why)
第3項 アイン・スタンスライン3(As Is / To be)
第4項 ケルト・シェイネン1(GROWモデル)←いまここ
第5項 アイン・スタンスライン4(イノベーター理論)
第6項 アイン・スタンスライン5(FABE)
第7項 アイン・スタンスライン6(ジョハリの窓)
第8項 アイン・スタンスライン7(MVV)
第9項 ライロック・マディン1(ランチェスターの法則)
第10項 アイン・スタンスライン8(レヴィンの変革モデル)
第11項 ライロック・マディン2(ハインリッヒの法則)
Product(第2章以降はこちらへ)
 
 

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