第1項 アイン・スタンスライン1(PDCA)

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 物語はエルゴルの片田舎、とある村に始まる。

 エルゴルでは、6年毎に全国民が働く場所・住む場所をランダムに変える大異動が行なわれる。だが、この村の人間は大変動に非協力的で、国王から要請があっても、故郷の土地に定住し続けた。なぜなら、古い言い伝えにより、故郷の土地を捨てたものと、その家族には、村を守る山ノ神の祟りがあると考えられていたからだ。村人は村の外れにある山を畏怖していた。そこは2000年前の最終戦争で死んだ神が祀られている、神の山だ。

 アイン・スタンスラインと1つ下の弟ブライアンは、この村で生まれた。
 アインは、知恵遅れだった。一方の弟は天才で、1歳半の頃には兄よりもよくしゃべり、才能と思いやりがあり、両親からも期待されていた。村人にも愛されていた。ところが、アインが3歳の時、生活費を稼ぐために外国へ出稼ぎに行った父親が、村から追放された。これ以降村人たちは、アインの家族に対して、山ノ神の祟りがあると罵詈雑言を浴びせるようになった。執拗な嫌がらせも行なわれた。
 母親は隣国オースティア出身の女性で、人格者であった。それゆえに、彼女は家族に対して浴びせられていた罵詈雑言が、アインや弟の耳に入らないよう、1人で抱え込み、鬱を発症した。人格者である彼女でさえも、次第に『出来損ない』のアインに対して強くあたるようになり、弟を溺愛するようになった。
 母親は病気の進行により、通院頻度が増え、家を空けることが多くなった。そしてアインが4歳のとき、彼はロウソクの火を倒し、火事を起こしてしまう。燃え盛る建物からアインを救い出したのは、3歳の弟であった。だが、この事件によって弟は大火傷を負い、帰らぬ人となる。病気の母親はアインに暴力をふるい、「あなたなんて生まなければよかった」と自分を責めた。
 アインは自分が何をしでかしたか理解していた。彼の脳細胞はこのとき、活発に動き出した。彼は母親に対する懺悔を手紙にしたため、母親の前で朗読した。母親は何度も謝罪し、涙を流して彼を抱きしめた。彼は母親からの愛情を感じながら、天才の弟が成し遂げていたはずの物事を考えるようになった。
 アインは外国の文献に興味を持ち、図書館で月100冊の本を読破した。母親は息子のために、村で唯一となる本屋を経営し、村の国際化に尽力した。

 月日は流れ、アイン・スタンスラインが8歳になったころ、彼は村の若者を集めて次のようなディスカッションを行なった。
「今日はPDCAというフレームワークを使って、人生の計画を考えたいと思います。PDCAは、プロジェクト、事業、業務の中身を計画(Plan)し、それを実行(Do)し、その結果を評価(Check)し、改善策を実施(Action)することで、事業、業務の質とスピードを高め、成果を出していくマネジメントの手法です。一般的には、ビジネスで使われる手法ですが、人生の計画でも応用できるのではないかと考えました」
 彼は滑らかな口調で、集まった参加者に説明を行なった。
「しかし、いきなり人生の計画を立てようと話したところで、どこから手を付けてよいかわからないと思います。実は一般的なPDCAには、足りない部分があります。それは仕掛けと段取りです。計画(Plan)の前の調査(Research)は戦略立案に必須ですし、実行(Do)の前には、計画の裏付け、具体的な作業への落とし込み、リソース計画(Implementation)が必要となるでしょう。成功するPDCAとは、RPIDCAなのです。まずは調査(Research)として、人間の一生で一番大切なものは何か、意見を出し合いましょう。それから、大切なものを得るために必要な計画(Plan)を考えていきたいと思います」
 参加者は8歳から18歳までの男女で、様々な意見が出た。愛、地位、名誉、健康、夏休みや、お母さんという意見も出た。その中でアインが最も感銘を受け、人生で一番大切としたものは
「私は、『時間』が最も大切だと考えました。時間は進むばかりで、絶対に取り返すことができません。人生で何かを成し遂げるためには、きっと限りある時間が最大の障害となるでしょう」

 彼は『時間』を得るための計画(Plan)を練った。彼は、6年間のフォルクスコール、6年間のギムナジウムという12年間の義務教育が、『時間』を闇雲に消費させていることを指摘した。そして義務教育を3年間短縮し、15歳でアカデミーに進学するための計画をたてた。彼は必要な学力を得ることと、浮世離れしないため必要十分に遊ぶことを計画、実際に行動し、ほとんど軌道修正することなく結果を出した。

 天才として村に名を轟かせた彼は、15歳で村のギムナジウムを卒業できることが決まった。ここで彼は、アカデミーへ進学するための最後の試練に挑むことになる。彼が計画していたのはオースティアのアカデミーへの進学だった。
 
 
《第1部アイン・スタンスライン目次》
プロローグ
第1項 アイン・スタンスライン1(PDCA)←いまここ
第2項 アイン・スタンスライン2(5−Why)
第3項 アイン・スタンスライン3(As Is / To be)
第4項 ケルト・シェイネン1(GROWモデル)
第5項 アイン・スタンスライン4(イノベーター理論)
第6項 アイン・スタンスライン5(FABE)
第7項 アイン・スタンスライン6(ジョハリの窓)
第8項 アイン・スタンスライン7(MVV)
第9項 ライロック・マディン1(ランチェスターの法則)
第10項 アイン・スタンスライン8(レヴィンの変革モデル)
第11項 ライロック・マディン2(ハインリッヒの法則)
Product(第2章以降はこちらへ)
 

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